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材料研究所 耐熱材料研究グループ 呂 芳一
材料研究所 耐熱材料研究グループ 原田 広史
日本のCO2排出量は炭素換算で毎年3億トンを越えるレベルにあり、 その1/3は火力発電から発生しています。最近の火力発電はガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた複合発電により総合熱効率を向上させています。 ここではガスタービンの熱効率を改善するためのCr基合金の開発を紹介します。
タービンの熱効率はタービン入口温度が高い程向上しますが、1段動翼の耐用温度により制約を受けます。 動翼材料としてNi基耐熱合金が使用されていますが、融点が1350℃前後であるため、 冷却、コーティング等を用いても1200℃以上での使用は困難です。
Cr基合金は室温における脆性が克服できず、長期間、開発が停滞していましたが、 近年この欠点を打破する研究が日米で開始されています。
当機構で行なわれている新世紀耐熱材料プロジェクトでは、耐用温度が1500℃程度の耐熱Cr基合金の開発を目指しています。 開発Cr基合金は、CrにRe、Wをそれぞれ10及び30原子%添加した2元系Cr基合金(それぞれ10Re、30Re、10W、30Wと略記)です。 開発合金及び比較合金(純Cr、Ni基単結晶耐熱合金TMS-75合金)に対し、室温から1300℃の温度範囲にて圧縮での降伏強度を比較しました。
図1 開発合金及び比較合金の降伏強度と試験温度の関係
図1に示すように、圧縮降伏強度は30W合金が最強で、1200〜1300℃の温度範囲では大部分の開発合金が第3世代単結晶合金のTMS-75合金より高い強度を示しました。 また、大気中1200℃における酸化試験の結果、資料の重量変化率は30Re合金が最小でした。 以上の結果から、高温での強度はW含有合金が、耐酸化性ではRe含有合金が優れていました。 開発合金は室温で圧縮歪が20〜30%まで延性的に変形しました。30Re合金では、図2のようにM8のねじを施した試験片の加工ができています。
開発合金は工業用レベルの純度を持つ原料で溶解しているので、実用化への来たいが大きいと考えられます。
図2 70Cr-30Re合金製試験片
(NIMS NOW 2002 Vol.2 No.3)