世界最高の耐用温度1100℃を有する超合金の開発に成功
平成15年3月27日
独立行政法人物質・材料研究機構
[概要]
独立行政法人物質・材料研究機構(以下NIMS、理事長:岸 輝雄)の材料研究所超耐熱材料グループ原田広史ディレクターらは、石川島播磨重工業株式会社との共同研究により、ジェットエンジンや発電用ガスタービン用合金として、世界最高の耐用温度1100℃のニッケル(Ni)基単結晶超合金(TMS-162合金)を開発した。今までの最高耐用温度は、NIMSが開発したTMS-138合金の1083℃、実用化されている合金ではCMSX-10合金の1062℃である。
本研究成果は、金属材料技術研究所時代の1999年度から5カ年計画で実施している「新世紀耐熱材料プロジェクト」により得られたものである。開発された合金は、燃焼温度1700℃の発電ガスタービン開発や、純国産ジェットエンジン開発を可能にするキーテクノロジーとなるものである。
この成果は、3月27日から千葉大学にて開催される日本金属学会春期講演大会において発表する予定である。
1.研究の背景と目的
地球温暖化防止の観点から、エネルギー機器関連のCO2排出量削減が求められており、それらの高効率化を可能にする新耐熱材料開発への期待が高まっている。
NIMSでは、独立行政法人先導プログラムの一環として、金属材料技術研究所時代の1999年度から5カ年計画により「新世紀耐熱材料プロジェクト」を実施してきた。本プロジェクトでは、CO2排出量大幅削減に向けて、1700℃級のLNG(液化天然ガス)燃焼超高効率複合発電、超高効率コジェネレーション(熱電併給)、次世代ジェットエンジンなどの先進パワーエンジニアリング技術の開発を実現することを目的に、耐熱材料の耐用温度を向上させたNi基超合金、セラミックス、高融点超合金などの開発を、民間企業との協力のもとで行ってきた。
2.これまでの研究成果
プロジェクトの開発材料の中で最も早期実用化が期待されるNi基超合金については、これまでに、以下のような成果を上げてきた。
@耐用温度1083℃のNi基単結晶超合金を開発(第4世代(TMS-138)合金の開発)。
A第2世代(TMS-82+)及び第3世代(TMS-75)合金について、1300℃級15MWの発電ガスタービンによる実機回転試験を実施し、約50日間の日中運転で首都圏に電力を供給。
B第2世代および第3世代合金を用いて、世界最大級の大型発電ガスタービン用単結晶動翼(全長30cm、重量10kg)の試作に成功。
C第2世代、第3世代及び第4世代の各合金を、国内・海外のガスタービンメーカー及びジェットエンジンメーカーに提供し、実用化に向けた技術移転・共同研究を実施。
3.今回の研究成果の内容
合金設計に基づき、第4世代合金をベースに、モリブデン(Mo)の添加量を増量して、合金中の析出物と母相との界面に形成された界面転移網(※)を25ナノメートル(nm)(従来合金は60nm)まで微細化して強化するとともに、ルテニウム(Ru)を増量して組織を安定化させた。この合金について、10mm径の単結晶棒を鋳造、熱処理を行ったのちクリープ(※)試験を行った。タービン翼として使用する場合を想定して試験温度は800〜1100℃、試験応力は137〜735MPaとした。1100℃、137MPaにて1%クリープ変形する時間で比較したところ、新超合金は、730時間以上耐え、新型ジェットエンジンに実用化されているCMSX-10の約5倍、第4世代合金TMS-138の約2.5倍のクリープ寿命が得られることを明らかにした。
4.今後の展望と課題
開発したNi基単結晶超合金TMS-162は、第5世代ともいえるものであり、新世紀耐熱材料プロジェクトの開発材料のうち、Ni基超合金の開発目標を達成した世界最高の耐用温度を有する超合金である。プロジェクトでは、最終年度となる2003年度において、実用化に必要な強度データベースなどの充実を図り、実用化を加速する予定である。
本合金は、燃焼温度1700℃の発電ガスタービン開発や、純国産ジェットエンジン開発を可能にするキーテクノロジーとなるものであり、実用化されればCO2排出量大幅削減に資することが期待される。その実現のための材料実用化プロジェクト(フェイズ2)を計画中である。
(問い合わせ先)
〒305-0047 茨城県つくば市千現1−2−1
独立行政法人物質・材料研究機構
広報・支援室 電話:029-859-2026
(研究内容に関する問い合わせ)
独立行政法人物質・材料研究機構 材料研究所
超耐熱材料グループ ディレクター 原田広史
電話:029-859-2503
e-mail:HARADA.Hiroshi@nims.go.jp
※ 界面転位網
単結晶超合金は、単結晶ではあるがミクロに見ればガンマ相とガンマプライム相という2つの領域が存在する。その境界に発生する転位(=原子配列の乱れの一種)が互いに絡み合って規則的なネットワークを作って動きにくくなった状態。
※ クリープ
材料を高温に保ち、ある一定の応力をかけた場合、瞬間的には破断しないが、長時間にわたって材料が徐々に変形し最終的には破断に至る現象。ガスタービンやジェットエンジン、ボイラーなど、高温で長時間用いる機器の構造材料部材にとって最も重要な特性。